『 仕事 ― (1) ― 』
ザザザ ・・・・ 走り込んできて〜〜 パスをゲット〜〜〜
ってコトでぇ〜 ワン ツ 〜〜〜 スリ〜〜 って シュ −−− ト!
パフン〜〜 ボールは あまりやる気なさそ〜な雰囲気でネットから落ちてきた。
「 ・・・ ふん ・・・ 」
すぴかは無造作にキャッチすると ゴールの方を見上げつつ、ばしばしドリブルをしている。
「 ふ〜〜ん ・・・ だ もうこのゴールは飽きちゃったな〜〜
目 瞑っててもシュートできるもん。 ・・・ ほい ほい ほい〜〜 」
ろくに狙いも定めず、すぴかはボールを投げるのであるが ― どれも確実にネットを潜る。
「 シュートはぁ〜〜 問題じゃないのよ。 問題なのは 〜〜 」
少し離れて ひょい、と後ろ向きで投げたが やはりボールは従順にネットに入るのだった。
「 問題なのは ― 司令塔 よっ ! 」
バン −−− !
たか〜〜〜く投げたボールは、真っ直ぐに落ちてきてすっとすぴかの手に収まった。
「 ふん ・・・ ! NO.4のマークに恥ずかしくない試合を 〜〜〜 」
ひょいと投げたボールはひらひら翻る洗濯ものを実に巧に避けて掠めて ・・・
すぴかの手に戻ってくる。
「 アタシはなんとかしなくちゃなんないわけ。 」
ぽい。 無造作に投げたボールは磁石に吸い付けられたみたいにゴール・リングを潜る。
「 ・・・ ふん ・・・ ! あったり前よねえ〜〜
コーチが違うもん、アタシのコーチは ― ボールのマジシャンだもん。 」
ぱし。ぱし。 ぱし ・・・ ! 連続して速いシュートを決める。
「 ― けど。 教えてくれたのはテクニックだけ なんだよね〜〜 」
ぼ〜ん ・・・ ぼん ぼんぼん ぼん ・・・・ ・・・
放り投げたボールは 裏庭の畑の方へと転がっていった。
年季が入り錆もすこし目立ってきたバスケのゴール・リングでは ぴらぴら〜〜ネットが揺れていた。
ギルモア邸の裏庭にバスケのゴールを設置したのは ジェットおじさん だった。
「 ほ〜ら〜〜〜 すばるってば〜 ちゃんとキャッチしてよぉ〜〜〜 」
「 え あ う うん ・・・ わあ〜〜〜 ・・・ 」
「 ちょっと! なんで逃げるのさ!? アタシのパスをキャッチして〜〜
アタシがこう〜〜 走ってきたらパスするの! 」
「 う ・・だ だって〜〜 すぴかの投げるの、強いんだもん ・・・ 」
「 へなちょこパスじゃ 届かないでしょ〜〜〜! 」
「 だって だってぇ〜〜〜 」
裏庭で 小学生の姉弟がボールを追っている。
・・・ いや ほとんどは弟がキャッチしそこなったボールを拾いに走り回っているのだが。
「 うお〜〜 なんだ〜〜 ドッジボールやってんのか〜〜 」
勝手口から ひょろり、と長身の赤毛の男性が出てきた。
「 あ ジェットおじさん〜〜 」
すばるは チャンス! とばかりにボールを追うのをやめてしまった。
「 おじさん、いっしょにドッジボール やる? 」
「 すばる! ボール拾ってきてっ! おじさん〜〜 ちがうの、アタシたち
バスケの練習してるの〜〜〜 」
「 ― バスケ ??? だってあいつ・・・ボールから逃げてたぜ? 」
「 そ! すばるってば アタシのパス、とれないんだもん。 」
「 はん? すぴか、バスケ好きか? この国でも小学生からバスケやるのか? 」
「 うん 好き♪ 体育で習ってさ〜〜 アタシ、クラスでシュートの数 一番! 」
「 へえ〜〜〜 小学校の授業でバスケ教えんのかあ〜 へえ〜〜 」
「 そ♪ アタシ〜〜 もっと練習して ふり〜すろ〜 の名人になりたいんだ。 」
「 お〜〜〜 よく言った! よし! オレがすぴか専用のゴールを作ってやる!
ほら 裏庭にさ、洗濯モノ干すとこがあるだろ? あそこ使ってさ〜 」
「 え!? ・・・ でもぉ〜〜〜 お母さんに叱られ ・・・ ないかなあ 〜 」
「 な〜〜に言ってんだ〜 自分ちの庭でバスケできる、なんてふつ〜 夢のまた夢さ!
っと〜〜 あそこが最適だ思うけどなあ〜〜 」
赤毛の青年は 裏庭をうろうろ歩き回っていた。
「 ・・・ すぴか。 お母さん おこるかな 」
すばるがこそっと聞いた。
「 う〜ん ・・・ ジェットおじさんがたのめばおこらない かも ・・・ 」
「 ね〜 」
― そして数日後。 裏庭の洗濯もの乾しのポールに 頑丈なバスケのゴールネットが
がんがん・・・!!! うりゃ〜〜! がんがんがん 〜〜〜
賑やかな合の手台詞?が入りつつ ・・・ しっかりと固定されたのだった。
「 ほ〜ら すぴか。 ここがお前のゴールだ。 お前専用のゴールだぜ。 」
「 う ・・ わあ 〜〜〜〜〜 ♪♪♪ 」
「 ま〜ずはシュートしてみろ。 ほい。 」
「 うん! ・・・ いきま〜〜す! 」
ジェットとすぴかの < バスケ特訓 > が始まった。
「 ・・・ お茶にしましょう〜〜〜 あら? すばる? 」
フランソワーズは三人を呼びに来たのだが ― 彼女のムスコは野菜畑でごそごそしていた。
緑の間にセピアの髪が見える。
「 すばる・・・ バスケットしてるのじゃなかったの? 」
「 あ〜〜 お母さん〜〜〜 僕ね〜〜バッタさん、捕まえてたんだ〜〜〜 ほら! 」
「 ・・・! 」
ずい、と差し出された緑の昆虫に フランソワーズは仰け反りそうになったが辛うじて堪えた。
「 あ あら ・・・ すごいわね〜〜〜 すばる。 ・・・ ねえ すばるは
バスケットやらないの? 」
「 僕はいい。 バッタさんと遊んでるんだ〜〜〜 」
「 そ そうなの? あ でもね、オヤツだから〜〜 バッタさんとはバイバイして
お家に入りましょう? すぴか達も呼んできて ・・・ 」
「 ・・・ おか〜さん バッタさん、飼っちゃ 」
「 ― だめです。 バッタさんはお外で自由に生きるのが幸せです! 」
「 でも・・・ 僕 仲良しになりたい ・・・ 」
「 バッタさんのシアワセを考えましょう。 すばる君は籠に入って暮らしたいですか。 」
「 ・・・ う〜〜〜ん ??? 」
「 ( なんで考えこむの〜〜 ) ほらほら 自由になりたいよ〜〜って バッタさんが〜
あ きっとバッタさんのお母さんが心配しているわ〜〜 ウチの坊やはどうしたのかしらって」
「 ・・・ 僕 バッタさんと籠で暮らしても ・・ 」
「 そんな大きな籠はありません。 さ お家に帰してあげてね。
ジェット〜〜〜 すぴか〜〜〜 お茶のじかん〜〜〜〜 !!! 」
しぶしぶ バッタさん とバイバイしている息子を視界の端っこに入れつつ、
フランソワーズはバスケ組にむかって声を張り上げた。
こうして < とくべつコーチ > に 手ほどきをしてもらった結果・・・
すぴかは小学生にして 驚異のシューター となったのである。
( 余計なワザも教わってしまったけど ・・・ )
もともと脚は滅茶苦茶に速かったので 中学に入るとバスケ部に直行 ― めきめきと
頭角をあらわし ・・・ 見事新人戦出場チームに選出された のであるが。
シュ ・・・ ぽん。 シュ ・・・ ぽん。
ボールをゴール板に当ててはキャッチする。
「 ・・・ 〜〜〜 ど〜したらいいのさ〜〜 どうやったら勝てる〜 ? 」
すぴかはず〜〜〜っと悩んでいる。
ジェットおじさんは シュートやフリースローのテクを教えてくれた。
けど ― チームとしての試合運びについては 教えてくれなかった。
ああ? オレはあんましゲームはやんなかったからな〜
ジェットおじさんはそういって ばちん! とウィンクしただけだった。
「 う〜〜〜 試合はぁアタシ 一人でやるんじゃないもんなあ〜〜〜 」
ふ〜〜〜〜 ・・・ すぴかのため息が 青空に立ち上ってゆく。
すぴか達、下級生チームは地区の新人戦に出場するのだ。
そして 島村すぴか嬢 は新人チームで 背番号 4 ! そう キャプテンなのだ。
コーチと上級生の部長に指名された時は ものすご〜〜〜く嬉しかった。
新人チームのメンバーも わ〜〜〜 やったネ すっぴ〜〜〜♪ って喜んでくれた。
「 よぉ〜〜〜し♪ 地区大会優勝めざして 〜〜〜 !!! 」
「 いえぃ〜〜! 」
新人チームはノリノリ〜〜〜だった。 そのノリは今も変わらない。
けど。 肝心のキャプテンが ドツボに填まってしまった。
アタシ。 どうやって皆をひっぱってけば いい?
どうやったら 皆で 勝てる??
特訓で個人のワザのレベルを上げる・・・のとはちょいと違う。
5人のチカラをいかにして最大限に発揮できるか? ― 今まで考えたこともなかった。
すぴかは 初めての体験にあっぷあっぷしているのかもしれない。
「 すぴかさ〜〜〜ん ! 晩御飯の支度 手伝ってちょうだい〜〜 」
キッチンの窓から きんきん声が飛んできた。
「 ・・・ はあ〜〜〜 お呼びだよぉ・・・ やれやれ・・・ 」
ぽ〜〜ん − 愛用のボールを放り投げキャッチすると、すぴかは立ちあがった。
「 おか〜さんに聞いてみる? ・・・ う〜む〜〜 スポーツとは無縁の人っぽいし、
おと〜さん ・・・ 無駄かもなあ ・・・ 」
のほほ〜んとした両親の顔を思い浮かべ 彼女はまたまたため息〜〜〜 だ。
「 すぴかさんっ ため息ついないで〜〜 温室からプチ・トマトとピーマン、
採ってきてちょうだいっ 」
きんきん声は実に的確な指示を出す。
「 ふぇ〜〜〜い ・・・ やれやれ ウチの司令塔はキビシイや・・・ 」
すぴかはのろのろと 温室の設置してある方へと歩いていった。
〜〜〜 ぽ〜〜ん ・・・ ぱく♪
「 んま〜〜〜〜〜 ♪ 」
「 < おいしい > ですよ、すぴかさんっ 」
「 あ〜〜 し〜ませ〜〜〜ん〜〜〜〜 」
すぴかは調理台の前で首を竦めた。
「 ん〜〜 でもすっげ〜〜 うま・・・じゃなくオイシイよ〜 お母さん。 」
「 うふふ・・・ そう? 鶏肉団子の甘酢あんかけ はお父さん、大好きだから・・・
美味しくできてよかったわあ〜〜 早く帰っていらっしゃらないかしらね〜 」
「 お父さんが ねえ・・・ 」
「 そうよ。 さ〜〜 あとは野菜とさっと絡めるだけ〜〜〜っと。 」
お母さんは相変わらず大にこにこ〜〜 で中華鍋をゆすっている。
ふ〜〜ん ・・・ おと〜さん おと〜さん ねえ ・・・
幾つになっても お父さんがイチバン なんだね〜
・・・ ふ〜〜〜ん ふ〜〜ん ・・・
「 それにしてもすぴかさん、上手ねえ 」
「 へ?? なにが。 アタシ、春雨サラダを混ぜていただけだよ? 」
「 サラダじゃなくて。 さっきの ぽ〜〜ん よ。 ナイス キャッチ。 」
「 ・・・ あ〜 ・・・ ( あんなの、当たり前じゃん? )
あ! そうだ! ねえねえ お母さん。 聞きたいことがあるんだけど〜 」
「 まあ なあに。 甘酢の分量? 」
「 ちがうよ〜〜 あの さあ ・・・ お母さんってスポーツやった?
若いころ・・・ 学校の部活とかさあ 」
「 スポーツ? いいえ。 お母さんはスポーツは見る専門。
部活 ってフランスの学校ではそんなに盛んじゃなかったし レッスンで忙しかったし。」
「 ・・・ やっぱしなあ ・・・ じゃ お父さんは? 」
「 ジョー? ・・・ さあ〜〜〜〜 ・・・ 聞いたことないけど 」
「 だよねえ・・・ お父さんさ なんかさ〜〜〜 ・・・トロそうじゃん? 」
「 すぴかさんっ お父さんにそんなこと、言わないで。 」
「 へいへい〜 けど〜〜 お父さんってばサッカーとか野球やってた・・・って聞く? 」
「 ・・・ それは ・・・ そうだわねえ・・・
部活でどうの 試合に出たのって話は聞いた記憶がないわねえ。 」
「 でしょ? う〜〜〜〜〜 誰かいないかなあ〜〜〜 」
「 すばる ・・・ はダメね。 」
「 だ〜〜めだよ〜〜 アイツ〜〜〜 」
「 あ バスケのことならジェットおじさんに聞けば? 」
「 個人ワザなら ね。 アタシはあ〜〜 チーム・プレイについて聞きたいのぉ 」
「 ・・・ そうなの? 」
「 そ。 アタシ、新人チームのキャプテンとして 悩んでるってわけ。 」
「 キャプテンとして? 」
「 そ〜 司令塔 としての悩み。 」
「 司令塔 ねえ ・・・ あ! じゃあね アルベルトおじさん に
聞いてごらんなさいよ。 」
「 え〜〜 ・・・だってさあアルベルトおじさんって 音楽学校ピアノ科出身 でしょ?
あ〜いうヒト達って 手とか指、命! でスポーツとは無縁なんじゃないの?
」
「 う〜〜ん ・・・ スポーツっていうか 司令塔としての役割だったら
アルベルトが一番だと思うわ。 」
「 そう??? ・・・ピアノ弾くのにチームワークいるのかな??? 」
「 まあ 聞いてみれば? 」
「 でも〜〜 日本に来るのぉ? 最近に さ。 おじさん〜〜 」
「 え? なに、今の日本語・・・ お母さん 理解できないわ。 」
「 シツレイしました。 え〜 ・・・ アルベルトおじさんは 近々日本に来るのですか。 」
「 理解できました。 ではお返事です、 いいえ。
」
「 じゃ〜〜〜 ダメじゃ〜〜ん 」
「 特別をもって電話していいわ。 すぴかさんが キャプテンになったお祝いよ。
ただし! 会話は手短に。 」
「 わあ〜〜〜〜い お母さん ありがと〜〜〜 」
「 だから聞きたいことをまとめておいたら? 」
「 うん! アタシ ノートに書いておく〜〜〜 うわ〜〜〜〜い♪ 」
「 なにが うわ〜〜〜〜い なんだい? 」
キッチンのドアが開いて ひょっこりジョーが顔をだした。
「 あら〜〜〜 ジョー〜〜〜 お帰りなさい 早かったのね〜〜 」
スタっ ・・・! 菜箸を放り出し、すぴかの横をすりぬけてお母さんは
お父さんに抱き付いた。
「 うん 取材が早く終わってねえ〜 た だ い ま フラン〜〜〜〜♪ 」
「 お帰りなさい〜〜 ジョー 〜〜〜〜 んんん〜〜〜〜〜♪♪♪ 」
「 フラン〜〜〜 んんん 〜〜〜〜♪♪♪ 」
「 ち。 世界は止まっちまったさ。 あ〜〜〜 アタシ、お皿だしとくからね〜 」
もう慣れっこになっている思春期の娘は 肩を竦めて食器棚を開けた。
― その夜 夫婦の寝室で ・・・
ジョーは昼間しっかりとお日様に当たりふっかふか〜になった布団とじゃれていた。
「 んんん 〜〜〜〜 いい匂い〜〜〜 ふは〜〜〜〜ん・・・ 」
「 うふふ・・・ ジョーってば本当に干したお布団が好きなのねえ 」
「 え〜〜 だってさ。 この匂いってばなんかその〜〜〜 ふわ〜〜っと包みこんでくれてさ
安心感 いや 幸福感ってのがハンパじゃないんだ〜〜 」
「 ・・・ そう? 確かに気持ちはいいわよね。 」
「 だろ だろ? あ〜〜〜 し あ わ せ ・・・! 」
ころ〜〜〜ん ころん。
ま〜あ ・・・ ジョーってば日向の猫みたい・・・
あ〜 すばるがちっちゃい頃 こんな表情してたわねえ〜
いささかあきれつつ フランソワーズはドレッサーに向かい熱心にブラッシングをしていた。
「 なあ〜 ウチのお嬢さんはえらくご機嫌だったじゃないか。 」
「 え? ・・・ あ〜 晩御飯の前のこと? 」
「 そ。 思春期女子が笑顔満開でさ〜〜〜 あ〜〜〜 可愛いなあ〜って見とれてた・・・ 」
「 うふふ・・・ そうねえ。 あ ねえ あの子に国際電話、掛けさせてもいいでしょ? 」
「 ― は?? 」
「 ちょっとね〜〜 相談ごとがあって。 アルベルトに。 」
「 なんでわざわざ ・・・ ここにちゃんと! あの娘の親はいるんだぜ! 」
布団から がばっと起きあがりジョーはどん、と胸を叩いた。
「 え〜〜 それがね、わたし達じゃちょっと・・・無理みたいなのよ。 」
「 はあ?? なんだってそんな! 」
「 ・・・ だから ねぇ〜 」
不満たらたらの夫に フランソワーズはやんわりと<事情>を説明した。
「 ふ〜〜〜ん ・・・ それでアルベルトなのか〜〜 」
「 そうなのよ。 彼なら最適でしょ? 」
「 ・・・ まあ ね。 」
「 だから電話してもいいわって許可したの。 できればメールとかでやりとりして
欲しいんだけど ・・・ 」
「 あ〜 ・・・ すぴか達の書く文章、通じるかなあ ・・・ 」
「 でしょ? わたしだってたまに ??? って思うもの。長時間じゃなければいいわよね。
すぴかへのお祝いだわ。 」
「 まあ ね。 しかしね〜〜〜 なんだってアイツはぼくに訊かないんだ? 」
「 あら。 だってジョー、バスケやってたの? 」
「 あ〜〜 いや ・・・ 」
「 でしょ? サッカーは? 野球は? バレーボールは? 」
「 いや ・・・ 」
「 でしょ? だからアルベルトに教えてもらえばって言ったのよ。」
「 おいおい〜〜〜 ぼくは! ゼロゼロナンバー サイボーグのリーダーなんだぜ?
ぼくらのモットーは チーム・プレイだろ。 9人でひとつ 〜〜
」
「 司令塔は アルベルト でしょ、ずっと。 」
「 ・・・ ですね ・・・ 」
( 注 : < 島村さんち > シリーズは 平ゼロ設定 )
「 彼ならなにかいいアドバイスをしてくれると思うわ〜〜〜 」
「 ・・・ そう願いたよ。 で いつ電話するんだい。 」
「 時差もあるし、彼も仕事があるでしょ。 まずはメールで時間を相談するわ。 」
「 ま〜 しっかり頼む。 ・・・ 寝るよ。 」
「 ええ任せて。 お休みなさ〜〜い♪ え〜っと・・ 緊急用じゃないアドレスは〜 」
ぼすん。
いそいそとスマホを取り出す細君を横目に ジョーはベッドにもぐりこんだ。
ふ ふ〜〜〜ん ・・・ そりゃアルベルトは確かに司令塔だけど〜〜
う〜〜〜 すぴかの父親はこのぼくなんだぞ〜〜〜
ふかふかのふとんで 甘ぁ〜〜〜〜い夜を♪ と目論んでいたはずなのだが・・・
ジョーは ぶつぶつ言いつついつしか寝入ってしまうのだった。
わ〜〜〜 ・・・ きゃ〜〜〜 ざわざわざわ ・・・
空気全体が揺れている。 熱気が溢れている。 ともかく人声と物音がそこらじゅうに満ちている。
喧騒、ではないが ともかく ― 賑やかだ。
う ・・・ ? な なんだ ・・・?
TV 付けっ放しで 寝ちまったのか ・・・・
ジョーは目をこすって起き上がろうとした その瞬間。
どご。 見事に脚を踏まれてしまった。 いや だれかが彼の脚の上を走って行ったのだ。
「 〜〜〜〜 !!!! 」
サイボーグだって痛覚はあるし、痛みよりも驚愕の方が大きくてジョーは思わず仰け反った。
「 あ? 〜〜 ごめん〜〜〜 けど ! そんなトコに座ってる方も悪いよっ 」
聞き覚えがある声が 頭の上から降ってきた。
〜〜〜 って〜〜 ???
え??? え? ・・・ すぴか か??
ジャージ姿の少女が ジョーを上から見下ろしている。
― 間違いなく ・ 確かに! ジョーの愛娘である。
「 ・・・ こんなトコって ベッドで寝てただけなんだけど ・・・ 」
「 へえ? まだ寝ぼけてるの? ココはあんたのベッドじゃないよっ
ね〜〜〜 怪我した? してないね? そんならごめんね〜〜 じゃね!
あ〜〜〜 練習試合 始まっちゃうよ〜〜〜 」
踏ん付けたと思しき場所を ちょちょちょ〜〜っとなでると 現行犯は駆け去ってしまった。
「 ・・・ お〜い すぴかぁ〜〜〜 そりゃあんまりじゃないか〜〜〜 」
ジョーは 遠ざかってゆく彼の娘の後ろ姿にぶちぶち呟いたけど、
勿論彼女の耳には全く届いているはずもない。
「 なんだあ〜 アイツ ・・・ って ココ ・・・? え えええええ・・・? 」
改めて周囲を見回し ― サイボーグ009 は絶句した。
彼は渡り廊下の真ん中に脚を投げ出して座り込んでいた のだ。
「 あちゃ〜〜 これじゃ脚を踏まれて当然だよなあ・・・ え 脚? 脚って ・・?? 」
ふと目を落とせば ― 問題の自分の脚は 黒いだぼついたズボンに覆われている。
「 ・・・ あ? こんなの、持ってたっけ?? え?? なんだ〜 この上着は? 」
改めて座り直してみれば。 だらしなく前を開けたままひっかけていた上着は
やはり黒、そして スタンド・カラーなのだ。 その下には派手なストライプのTシャツ。
「 ・・・ なんだコレ?? え もしかして ・・・ 」
バサ。 上着をひっぱってみる。
「 これって 学ラン か??? うっそだろ〜??? こんなの、着たことないよ??
ぼくの学生時代はズボンはチェックでブレザーだったはず ・・・・ 」
そろそろ立ちあがって ゆっくりと周囲を眺めれば ― そこは間違いなく! 学校だった。
かなり広い校庭がありその奥には体育館らしき建物がみえる。
ふり仰げば ばば〜〜ん! と 大きな校舎が聳え建っていた ・・・
「 ・・・でか ・・・ 中高一貫校・・・ってとこか?
って! ここはどこなんだ〜〜〜〜 だいたいなんだってぼくはまた学ランなんか着てるん
だよ?? 」
改めて注意深く辺りを見回したが どうやら放課後らしく、グラウンドでは野球部とサッカー部が
熱心に練習をしているし 生徒たちは笑ったり騒いだりして出はいりしている。
「 ・・・ やっぱりここは学校なんだ。 そうだ! すぴか! アイツに聞けばなにか
わかるかも? 練習試合 とか言ってたな。 野球とかサッカーのマネジャーって
雰囲気でもなかったし ・・・ 体育館、覗いてみるか。 」
ジョーは ともかく学ランをきちんと着た。
「 うわ!? 」
歩き出した途端に 自分の靴に躓いて靴がすっぽ脱けた。
「 なんだ〜〜? え・・・ カカトを潰しているじゃないかあ〜〜 もう! 」
きっちりと上履きを穿き直すと 彼はスタスタ・・・渡り廊下を歩いていった。
?? うっそ〜〜〜 島村クン ???
ひえ〜〜〜 なんなんだ〜〜 アイツ?
え! ・・・ ホントに島村かよ ・・・
し〜〜〜っ 聞こえるわよ ・・・!
途中 ひそひそ声が後ろで聞こえたけれど、シカトした。
なにがなんだか全然わからないけれど、
ともかく自分は < 島村ジョー > であることだけは確からしかった。
「 えっと? 体育館〜〜 は ・・・ ああ ここから入るのか? 」
ひそ・・・っと覗いた、そこは ― 熱気と歓声と床を踏む音の坩堝だった。
「 いけ〜〜〜〜〜 そこだっ シュート〜〜〜〜! 」
「 決めろ〜〜 っ !! 」
「 キャッチ キャッチ〜〜〜 !! あ〜〜〜 ・・・ 」
試合がどうの ・・・って言ってたよなあ ・・・
そっか〜〜 例の新人戦かな?
ジョーは生徒たちの背後を気配を消してすすす・・・っと移動してゆく。
人垣が少し疎らな場所をみつけ やっとゲームを眺めることができた。
あ 見える 見える・・・ やっぱ女子バスケ部か ・・・
― え 〜〜〜〜〜〜 す す すぴか????
棒立ちになっている彼の目の前を 亜麻色の髪を靡かせ、少女が疾走してゆく。
そして チーム・メイトからパスを受けると 鋭くゴール下へと切り込んでゆき
パサ。 見事にシュートを決めた。
わあ〜〜〜〜 やった〜〜〜〜 きゃあ〜〜〜 すげ〜〜〜〜
体育館中に歓声が溢れかえる。 観戦の生徒たちは抱き合ったりハイタッチしたりして
もう大喜びだ。
「 すげ〜〜〜 ホント、アイツ すげ〜〜な〜〜〜 」
「 女子バスケも、今年はいいセン、行くかもな 」
「 うんうん 男子はジェットがいるからさ〜〜 」
「 そ〜そ〜 だからさ〜〜 アルベルトコーチも女子に掛けてるって 」
「 だろ〜な〜〜 」
「 え〜 知らんの? ジェット、足がさ〜 」
「 バッカだよな〜 」
なんだか聞き覚えのある名前があちこちから零れてきて ジョーは眩暈がする気分だ。
そんな彼を他所に試合は大歓声の中、この学校のチームの勝利に終わった。
最後は勿論、 あの亜麻色の女子選手が華麗なロング・シュートを決めた。
歓声の中 選手たちはコートから出て廊下に抜けてゆく。
ジョーはもう夢中で あの女子の側に駆け寄ってしまった。
「 すぴか! おい すぴか! 」
「 ・・・? 」
すんなりと長い手足の。 亜麻色の髪をきりりと赤いバンダナでまとめて。
タオルでごしごし汗を拭っていた彼女が ゆっくりと振り向いた。
「 ― わたし フランソワーズ ですけど? 」
「 ・・・・・・!!! 」
彼のよ〜〜〜〜く知っている、この世で誰よりもよ〜〜く知っている・はずの碧い瞳が
怪訝な表情で 見返してきた。
「 なにか? 」
「 ・・・ え あ ・・・ いや ・・・ その〜 」
「 ? 」
「 ・・・ あ その ごめん ・・・ すごいなって思って ・・・それで 」
「 まあ ありがと。 じゃ 失礼 ・・・ 」
ほんのちょっとだけ微笑すると 彼女はすっとジョーの横をすり抜けて行ってしまった。
「 あ・・・ あ〜〜〜 」
ぽん。 誰かがジョーの背中を叩いた。
「 ・・・ あ? 」
「 よう 島村。 お前もやってみないか。 カノジョとお近づきになれるぞ? 」
「 ・・・ へ?? 」
振り返れば背の高い銀髪が ジャージ姿で立っていた。
「 !? あ あ あるべると 〜 !? 」
「 < アルベルト > か? 」
薄い水色の瞳が 銃口のごとくに睨んでいる。
「 ・・・ あ あ〜〜〜 そ そのぅ あるべると こ〜ち ・・・ 」
「 ふん。 次 男子の試合だぞ。 見に来い。 相手チームのキャプテンで
エースは アポロンだぜ。 だがウチは多分めちゃ負けだろうな。 」
「 ― は あ??? なんで ・・・ 女子は強いのに? 」
「 おい! 島村! お前、まだ寝ぼけてるのか? 男子チームはジェットは負傷するわ
ピュンマは家の事情で帰国するわ でもうさんざんなんだぞ! 」
「 は あ ・・・ 」
「 今日の試合はもう諦めている。 しかし 来月からの都大会予選・・・
これはどうしても! 勝ち上がりたい。 」
「 は あ ・・・ けど主力メンバー 欠けてるんじゃ〜無理っすね。 」
「 おい! だから〜〜〜 お前。 」
びし! 革手袋の指が ジョーの胸を指す。
「 へ??? お オレ?? 」
「 そうだ。 ピュンマはなんとか試合に間に合うよう戻ってこれそうだが ・・・
ジェットはなあ〜 あのバカ、無茶やって複雑骨折だからな。 」
「 ・・・ え〜〜〜 サイボーグが複雑骨折ぅ?? 」
「 はん? サイがどうかしたのか 」
「 い いえ! こっちのコト ・・・ 」
「 ふん。 それで だ。 島村、 お前バスケ部に入部しろ。 」
「 え〜〜〜〜〜 なんで? オレ、 バスケなんかやったこと 」
「 できるよ! 」
突如 可愛い声が二人の後ろから飛んできた。
「 できる。 きっとできるよ、お兄さん。 アタシ達 バスケ部のためにお願い! 」
「 ??? え ・・・ ( す す すぴか ・・・?? ) 」
「 あ〜 なんだ 島村かあ。 … ジョー お前の妹じゃないよな? 」
「 !!!!!! 」
ジョーは ぶんぶん首を振った。
妹 じゃないよ〜〜〜 すぴかはぼくの 娘!!!
・・・と叫びたかったけれど 彼は金魚みたく口をぱくぱくさせただけだった。
「 あ? ほんじゃ親戚か? 」
「 違います コーチ。 赤の他人ですっ 」
すぴかが平然と言ってのけた。
あ 赤の他人〜〜〜??? がび〜〜〜〜ん ・・・!!
ジョーは目が点になり突っ立ったままだ。
「 だろうな〜 島村 ( ← すぴかのこと ) の親戚ならとっくにバスケ部だよな。 」
「 はい。 でも コーチ! このおに〜さん、きっとやります! 」
「 ・・・ 俺もそう願いたいだが 本人がイマイチやる気がないみたいなんだ。 」
「 大丈夫! アタシがなんとかします! なんとか試合に出てもらいます! 」
「 島村 ・・・ 大丈夫か? コイツ、学年でも有名な ・・・ あ〜〜 なんというか 」
「 ?? 」
「 大丈夫。 わたしも協力します。 」
爽やかな声が二人を振り向かせた。
「 ? あ〜〜〜〜〜 アルヌール先輩〜〜〜 」
「 ・・・ フランソワ―ズ ・・・ いいのか、お前 ・・・ 」
「 はい。 コーチ そして 島村すぴかちゃん。 バスケ部のために頑張りましょう。 」
試合用のユニフォームの上にジャージをひっかけて あの亜麻色の髪のスーパー少女は
にこやか〜〜に言った。
「 うわ〜〜〜 先輩〜〜〜 先輩が手伝ってくれたら〜〜 もう最高!!
ね ね コーチ! これで男子バスケも地区大会、勝ちあがれるよね〜〜 」
「 そうすれば バスケ部、存続しますよね コーチ。 」
「 フランソワーズ ・・ 知ってるのか。 」
「 兄から聞きました。 」
「 あ・・・ お前の兄貴、 高等部で生徒会長だもんな ・・・ うん そうなんだ。」
「 ? そんぞく ってなんですか? 」
「 あ〜〜 うん … まあな、オトナの事情ってヤツで。
成績不振の部は まあ一時休部とすることになってな ・・・ 」
「 え〜〜〜〜〜 そ それで男子バスケが? 」
「 ああ まあ な ・・・ 女子バスケは優勝候補だが男子は このところずっと初戦敗退だ。」
「 そんな〜〜〜 あ! でも大丈夫! ほら〜〜〜 このお兄さんが〜〜 」
くい。 すぴかはま〜だ固まっているジョーの手を引っ張った。
「 そうです、コーチ。 わたし達女子バスケ部も協力しますわ。
それに すぴかちゃんたちには新人戦への練習にもなりますし ・・・ 」
「 わ〜〜〜 アタシらも〜〜 がんばりまっす〜〜〜〜 」
「 そうか! ありがとう!! それじゃさっそく。 」
「 はい、 島村君に練習スケジュール、渡しますね。 」
「 よし。 男子バスケ部もスケジュール変更だ。 明日から ― 朝練だ。 」
「 すご〜〜〜〜い〜〜 きゃいきゃい〜〜〜♪ 」
「 ほらほら すぴかちゃん。 コートの掃除をおねがいね。 」
「 は〜〜い アルヌール先輩〜〜 」
「 頼むぞ。 さ 島村ジョー、頑張ろうな。 」
ぽん。 コーチはジョーの背を叩くとすたすた・・・行ってしまった。
「 あ じゃ〜ね〜〜〜 お兄さん〜〜 ばいばい〜〜 」
「 わたしも今日は帰るわ。 今日のゲームのスコア・レコード、確認しておかなくちゃ。 」
女子達も行ってしまった。
「 ・・・ あ ・・・・? 」
― ご本人が呆然としている間に ご本人の意志とは全く無関係に。
島村ジョー君 のバスケ部入部は決定したのだった。
Last updated : 19,08,2014.
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********* 途中ですが
え〜〜〜 島村さんち・シリーズ というより
夏休みのお遊び・パロ? とでも思ってください〜
平ジョーって 生身のころは運神 なさそう・・・